ABOUT

ダンス保育園!! とは

子どもを育てながら仕事をする世代にとって、いま「保育」はますます切実な問題になっています。アーティストにとっても同様で、創作と育児の両立という問題に直面しながらも、活動を長期間中断することなく、何とかバランスをとろうと頑張る人たちが増えてきました。

日頃から、ダンスなどのスタジオと保育のスペースは実は親和性が高く、安全でクリエイティブな環境なのではないかと感じていました。朝から夜までそこに出入りするのは、並はずれて身体感覚が鋭敏で、安全性に対して意識が高く、身体表現の喜びを知っているダンサーたちです。ハイハイする赤ちゃんと同じ、フロアに近い目線で、お互いの身体の声に耳を澄まし、見守っている人たちなのです。そこには小さな子どもが育つ環境として豊かな可能性があると考えます。また多様なワークショップの企画運営を通して、ダンサーやアーティストたちが子どもたちと触れ合う経験から多くを学んでいることを実感してきました。

そこで、2016年「ダンス保育園!!実行委員会」を発足し、芸術祭やフェスティバルと連携して、子育て中のアーティストや観客を支援する「ダンス保育園!!」という活動を行っています。本企画では、ダンサーやアーティストたちがダンスのほかライブパフォーマンスを演じるステージと、ワークショップを行うフィールド、一時託児スペースが、緩やかにスペースを共有します。

2016年度アーツカウンシル東京の助成事業に、2017年度公益財団法人セゾン文化財団の助成事業に採択され、その支援のもとに、さまざまな地域の自治体や団体のイベント、フェスティバルや芸術祭、ホールや美術館などを巡回しながら、実施を重ねてまいりました。

「ダンス保育園!!」は、これからの時代に求められる新しい働き方や子育てを提案します。そしてイベントからインフラへと視野を拡げ、新しい業態の複合型施設や公共施設に正式プログラムとして常設されることを将来的な目標としています。

ダンス保育園!!実行委員会
アートプロデューサー 住吉智恵

概要

名称:ダンス保育園!!

ダンス保育園!!実行委員会

企画:住吉智恵(アートプロデューサー)
空間構成:永山祐子(建築家)
振付・出演:篠崎芽美(珍しいキノコ舞踊団)
制作:TRAUMARIS、合同会社キノコノキ、宮久保真紀(プロデューサー)
協力:イベント託児〈マザーズ〉
助成:アーツカウンシル東京(2016年度)
公益財団法人セゾン文化財団(2017年度)

企画主旨

〈芸術文化と子育て支援のコラボレーションによる、持続可能な創造活動の仕組みづくり〉

子どもを育てながら創作活動をエネルギッシュに継続しているアーティストたち。
子育て中も精神の糧として芸術鑑賞を楽しみたい人々。
子どもたちをダンスやアートにふれながら育てたい人々。
働きながら表現活動を研鑽する若いアーティストたち。
このような多様な立場の人々を応援する「仕組みづくり」を目的としています。
長期的には、ダンススタジオと、一時託児サービス、ワークショップスペースを併設した、新しい形の複合型施設の業態提案につながることを企図しています。

プログラム内容

さまざまな芸術祭やフェスティバルなどのイベントや、劇場やホールの主催公演と連携し、ダンサーやアーティストによる子どものためのワークショップやパフォーマンスを実施します。
空間は、軽量・安全な素材で実施会場に応じて組み合わせられるブロックとパズル型パンチカーペット、薄い蚊帳状で中の様子が微かに見えるティピー(テント)などで構成されます。
託児(遊び、お昼寝など)、ワークショップ、パフォーマンスなど、用途に応じてブロックやティピーを随時移動し、フィールドをつくることができます。また何回かリユースできるモジュール型の舞台装置を考案し、初期費用を調達することで継続が可能となります。

空間構成のコンセプトとプラン

永山祐子(建築家)

「ダンス保育園!!」は、軽くて丈夫な「壁ブロック」と半透明の「カヤの小屋」を使った、毎日つくりかえていくことができるスペースです。

ベーシックプラン

basicplan
ベーシックプランでは会場に軽い発泡スチロール製の「壁ブロック」を並べ、緩やかなフィールドを作ります。「カヤの小屋」(テント、ティピー)はいくつか種類があり、ここで乳幼児を寝かせたり、授乳したりすることができます。また子供の遊び場になる小屋や、イベントやワークショップ等、色々な使い方を考えることができます。

ステージプラン

stageplan
ステージプランでは「壁ブロック」を動かすことでフィールドのかたちを変えることができます。「ダンス保育園!!」のダンサーやアーティストは、小屋やブロックの合間を縫って踊ります。動かした「壁ブロック」は客席とステージの間仕切りや机として使われます。

ワークショッププラン

workshopplan
ワークショッププランでは「壁ブロック」を島状に置くことで、いくつかのワークショップやイベントを行うことができます。最初の状態は白い「壁ブロック」と白い「カヤの小屋」でできた、真っ白な空間です。そこに子供たちが絵を描いたり、洗濯バサミをくっつけたりすることで、徐々にカラフルに色づいていきます。

「ダンス保育園!!」は誰にでも組み立てられる構造を考えています。
そのために2つの材料を考えています。

blockwall
「壁ブロック」は発砲スチロールなど軽くて加工しやすく安全な素材でできています。規格サイズの発泡スチロールを等分に切って「壁ブロック」を作ります。「壁ブロック」を組むことでいくつかのユニットができます。このユニットを好きなかたちに置くことで緩やかなフィールドを作ります。
kayahouse
「カヤの小屋」(テント、ティピー)は蚊帳の生地でできています。
蚊帳は軽くて丈夫なので、組み立てや解体がとても簡単です。少し骨組みを工夫すれば、様々なかたちのあずまやを作ることができます。

この2つの材料を使ったスペースはとても簡単に作ることができます。
まず会場全体にパンチをひきます。
次に「壁ブロック」を並べて「カヤの小屋」を組み立てます。「壁ブロック」は軽いので、小学生でも運ぶことができます。
イベント期間中、遊んでいる子供たちやワークショップによって、「壁ブロック」や「カヤの小屋」がカラフルになっていきます。終了後は、そのまま解体をして、発泡スチロールはリサイクルへ、蚊帳は保育園や家庭で再利用されます。
緩やかにつながるフィールドでは、様々なイベントが誘発されると考えています。
例えば、広々としたフィールドを使って、親子でダンスをするワークショップが開催されるかもしれません。白い「壁ブロック」や「カヤの小屋」にペイントするワークショップも開催されるかもしれません。ほかにも飛び込みのマジックショーや、子供たちが考えた秘密基地が作られるかもしれません。
「ダンス保育園!!」ではダンサーやアーティストたちがパフォーマンスを演じるステージと、一時託児サービスに合わせて、ステージのまわりの人やイベントと緩やかにスペースを共有していくことができます。

install_recycle
workshop

一時託児サービス

託児スペースを設ける場合にはイベント託児・マザーズにご協力いただきます。
http://www.mothers-inc.co.jp/
イベント託児とは、観劇やコンサートの間、子どもを預かるサービスです。歌舞伎座や新国立劇場などの劇場、国立新美術館などの美術館、チケットサービス機関といった各所と提携して、芸術文化施設が託児費用の一部を負担することで、子どもを持つ鑑賞者の来場を促すサービスを初めて提案し、多くの親子に利用されています。創業18年、登録スタッフ約200名、無事故という実績があります。

企画の経緯とこれから

企画者自身は子どもを育てた経験はありませんが、もちろん育てられた経験はあります。母子家庭に育った私の最古の記憶は、2歳で保育園に預けられ、ベビーベッドの柵の間から見た風景です。当時は保育所を利用するお母さんが少数だったからでしょうか、ほとんど寝かされていただけで、楽しい思い出はありませんでした。

その後、祖父母や母、叔母叔父、いとこたちと一緒に暮らすようになってからは、瞬間最大9人の3世代家族の中で育ちました。2つの対照的な環境を経験して知ったのは、多様な人たちのいる環境で暮らすことの安心感や生活の工夫でした。

劇場や美術館に来る観客には小さな子どもを連れた家族連れが少しずつ増えています。子どものいる家族にとって週末の外出は大切な体験の共有です。長時間抱っこしながら立ちっぱなしは疲れるでしょう。時には大人だけでじっくり楽しむ時間がほしい人もいるでしょう。けれども親子や家族でいっしょに、ダンスやアートを体験し、多様な表現者たちと触れ合う一日はゆくゆくまで記憶に残るのではないでしょうか。

「ダンス保育園!!」は、実験的なプラットフォームとして、まずは家族でパフォーミングアーツなどの芸術にアクセスできる機会を設けることからスタートしました。2016年の活動開始以来、多いときは約100組の親子を対象に、親子で参加できるダンスワークショップ、絵画や工作のワークショップを行っています。

いずれはこのモデルケースが、社会が求めている新しい業態の施設やサービス、あるいは働きかたの提案へとつながることを企図しています。
新しい家族の未来形でもあるこのイメージを共有いただき、ご賛同いただければうれしく思います。